料理家・山田英季さんの梅語り

 今回の企画で再確認できたのは、調味料としての梅干しの可能性でした。酸味も甘みも塩分もある。加えて、香りもよし。1粒でそれらの要素を兼ね備えている食材は世界を探してもそれほどなくて、それって合わせ調味料だよなぁと。たとえば、オイスターソースって、炒め物に加えてもスープの隠し味に使っても便利なもの。梅干しもオイスターソースと同じように無限の可能性を秘めた調味料だと捉えると、レシピの可能性が一気にひろがりました。
 たとえば、タルタルソースの調味料には、マヨネーズ以外は梅干ししか使っていません。梅干し=合わせ調味料ですから、塩とこしょうを足さなくても、抜群においしくなります。梅茶漬けにしても、ごま油をプラスするだなんて「梅の香りを消してしまわないか?」と感じる方もいるかもしれませんが、今回使用した備え梅は香りもしっかりしているので、相乗効果で食欲をそそります。
 数ある梅干しのなかで備え梅の特徴は、塩分がとっても高いことと、水っぽくないことが挙げられます。もちろん、水っぽい梅干しを調味料として使っても、合わせやすく受け入れやすいものになるよさがあるのですが、備え梅はほかではみられないほど繊維質が豊富です。杏などの果実に近いもので、包丁で叩いてペースト状にする際に細くしても梅の主張が消えない。だからこそ、梅茶漬けにごま油をプラスしても相乗効果が狙えるのだと思います。
 実は、BambooCutと梅干しをテーマにフランスを旅したことがあります。「にっぽんの梅干し inフランス」というイベントでした。その際、現地の方に梅干し料理を体験してもらったのです。単体で食べるのには抵抗がある人も多かったのですが、卵焼きにしたり和え物にすると「セボン(おいしい)!」との感想を口にする人がほとんどでした。日本人にとってはなじみ深いあの形と色さえなくしてしまえば、梅干し未体験の海外の人にも受け入れてもらえるということ。梅干しを調味料として考えることの原点は、フランスという異国の地でのこの出来事がきっかけでした。
 梅干しは日本人にとって大切な食材です。だからこそ、もっと自由な存在になればいいなぁと思います。フランスでの出来事や、今回の企画に参加させてもらったことで、梅干しをもっともっと自由にする可能性を再確認できたように感じています。